神鳥の卵 第31話


「・・・え?ごめん、もう一度説明して?」

場が静まり返えり、カレンの声が妙に大きく聞こえた。
スザクも今聞いた話がうまく理解できなかったのか、目を白黒させている。
ルルーシュが敵の目的を明確に伝えたつもりだったが、うまく伝わらなかったらしい。 仕方ないなとC.C.が口を開いた。

「簡単に言えば、ゼロであるスザクのストーカーだ」
「いや、簡単にしすぎだ!もっとわかりやすく説明してよ!え?ゼロのって僕じゃなくてきみのだよね??」

たしかにゼロのファンは多い。めちゃくちゃ多い。特に初代の演説など特番でよく流れるほどだ。ファンブック、ゼロの歴史、ゼロ解析書、ゼロ名言集などなど書物も山程出ている。もちろんこれらは黒の騎士団が公認で出しているものだ。個人で出しているファンブックもあって、一番有名なのは玉城が出している「俺とゼロ」という本だが、あれもルルーシュ時代のゼロの話だ。

「おれじゃない。スザク、おまえがねらいだ」

今説明しただろうと、ルルーシュは呆れたように息を吐いた。

「え?僕なはずないだろ!?」

反面、初代のような名言を残しているわけでも、演説をするわけでもない(してもシュナイゼルが用意した文章をルルーシュっぽく読み上げる程度)二代目にストーカーがなんて思いつかない。思いつかないのに、ストーカーは二代目だから狙っているという。

「スザクの?それはないでしょ?」

カレンもあっさりと否定した。
カレンだけではない。ルルーシュ以外の全員、ストーカーが狙うのは初代だと考えていた。とはいえ、中身が誰かわからないのがゼロだ。初代と二代目がいることだって世間一般には知られていない。いつ入れ替わったかだって知られていない。そういう意味では初代だろうが二代目だろうが狙われているのは現在のゼロであるスザクだ。
だから初代か二代目かを論じるのは無駄ではないかと思うのだが。

「ゼロがスザクだときづかれている」

緊迫感がある内容なのだが、キリッとした顔で話しているのは6歳ほどのかわいい天使・・・いや子供で。みんなついつい顔が緩んでしまう。ルルーシュも慣れたもので、周りの反応はみんな子供好きなのだろうと解釈しているため、気にせず話を勧めた。

「だからほしいんだよ、ゼロが」
「ちょっとまって?僕だってバレてるってどうして!」
「それはないわよ。こいつ人前で飲食しないから仮面絶対取らないもの。私達以外にはバレてないわ」
「・・・でも、しゃべる時のアクセントはお兄様じゃなくてスザクさんのですから、お声を変えていても気づいた方がいるのかも・・・」

ナナリーは目が見えない期間が長かった。音を頼りに生きてきたナナリーの情報はかなり重要かもしれない。そもそもルルーシュは生粋のブリタニア人だがスザクは日本人。同じブリタニア語でも日本人特有の訛りは気にならない程度だがあるにはある。変声機が同じでも、中の人が違うことはバレていた可能性は否定できない。
ゼロの正体を知っているものは、ゼロがルルーシュだったと知っている一部の者達だが、彼らがゼロの正体を言うとは思えないから、可能性があるとすれば声や身振り手振りだろう。

「でも、それで僕ってわかるかな?」

一人称は私にしている。しゃべり方もルルーシュの演説なんかを何度も何度も繰り返し見、練習したからスザクらしさはかなり消えているはずだから、別人だと気づかれても、それがスザクだと気づくとは思えない。

「いや、声ではない」
「あら、違うの?」

ルルーシュがナナリーの案を否定したということは、100%いや1000%ありえないということだ。

「じゃあ、監視カメラでも仕込まれてて、仮面を脱いだ姿を見られた?」

カレンが眉を寄せた。もしそうなら黒の騎士団の失態だ。あのシュナイゼルがそんなミスを犯すだろうか?想像がつかない。

「いや、もっとシンプルな話だ」
「体力バカになったからだろ?元は頭でっかちのど」
「C.C.」
「・・・元は頭脳派だったからな」

ルルーシュにギロリと睨まれ、C.C.は言葉を訂正した。
二人きりのときならともかく、ナナリーもいるここで使う言葉ではないし、何より怒らせたら今晩予定していたピザを作ってもらえなくなるかもしれない。そもそもこの歳の子供には不適切な言葉だ。17歳の姿に戻るまでは禁止にしようと無表情のままC.C.は心に決めた。
カレンとスザクに不審そうな目を向けられ、ナナリーは首をかしげたが上手く誤魔化せたらしい。

「・・・まあ、そこは否定出来ないわね。ルルーシュは肉弾戦なんてでき・・・見たことないもの」

できないものといいかけてやめた。ルルーシュは反射神経がいい。だから敵に襲われても対処はできるのだ。現にスザクの攻撃を初見で受け止めたりしたと言う。カレンよりは格段に劣るが、下手な男よりはできる。

「あー、そうだね。ルルーシュがギアス無しで戦って勝てるわけ無いよね」

カレンに気遣いなど気づきもせず、スザクはズバリと言った。
いやそれはない。ギアスだけで生き延びたわけではないが、幸運やC.C.という盾が守っていたところもあるので否定も肯定もできない微妙な空気になった。

「スザク、お前の基準で考えるな」

そんな空気など物ともしないのはやはりルルーシュ。

「ふふっ、お兄様がスザクさんのようにお強かったら無敵になってしまいますね」

そしてナナリー。
彼らはこの程度のおかしな空気など気にもせず、三人だけの特殊な空気を瞬時に作り出すから油断できない。

「ルルーシュができないことをスザクがしたのは間違いないのよね?」

学園ではじめて見たときは三人の空気に驚き戸惑ったが、とっくにこの空気に慣れきってしまったカレンは、微妙な空気が消えたこのスキにと話を進めた。 初代ゼロではない別人であると断言できるなにか。そしてその別人はどう考えても枢木スザクだと断言できるなにかがあったのだ。その情報を枢木スザクのファン(仮)が手に入れ、ストーカーになったと。

「そういうことだ。これを見ろ」

ルルーシュがカチカチとコーボードを操作すると、壁に設置されていた巨大モニターに映像が映し出された。

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